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職人は何年で一人前になるのでしょうか。


先日ブログでも紹介した、当社で修行した吉田友也君の、年季明け披露宴の招待状を出させていただいたお客様からの問い合わせで、
「水戸さんのところは3年で一人前の職人になるのですか?」と聞かれました。
私は、「エッ」と絶句してしまいました。
今の環境の中では3年では到底一人前にはなれません。

 

 

 

私が案内状に「石の上にも三年」の諺をかいたことが誤解を招いたようです。
「石の上にも三年」の意味は、石の上にも三年座れば石も温まるということから来ており、三年も形容のための言葉で、3年を長い間、と解釈した方がしっくり来ます。
家を造るためには十数種の職人さんが技術を結集し、互いに協力してお施主様に喜ばれる家を造ります。
どの職人でも長い下積みの弟子の時代をすごして、他人に認められる仕事が出来るようになる為に10年は掛かります。

技術を伝える方も、教室で多人数を相手に授業をするようなわけには行かないのです。

私は孫の小学校のPTA会長をしておりますが、表面的には学校側は子供たちの個性を伸ばして育てようと言ってはおりますが、今の教育は皆同じで規格にはまった教育を押し付けられていると感じます。
しかし、職人を育てるときはそうは行きません。
無理やり押し付けても育たず、止めざるを得なくなります。
一人一人個性も違いますし、覚えの良いもの悪いもの、手先が器用なものやそうでないものもいます。
材木でも一本一本癖があり、素性が違うので、木を組み合わせる上での、その違いを一つずつ教えるというのは膨大な数になりすぎて不可能です。
教える方としては個性を汲んで、時には叱咤激励をして、少しずつ基礎を叩き込んでいくのです。
弟子としては、経験の中で様々な自分なりの工夫をしていく事が一流の職人となるうえでの不可欠な事でしょう。

吉田君は6年間の修行期間でしたが、今回年季明けをするのに、万全だったわけではありません。
私が弟子の時代から比べるとまだまだ、というところですが、一応私が定めた期間をしっかりと修行に励んだので、終了証を授与する事にしました。
この終了証に恥じないように、これからも努力をしなさいと意識を高める為に渡すものです。
職人は何年で完璧な腕前になる、ということはなく、一生修行です。
厳しく聞こえるかもしれませんが、職人でなくとも、どのような仕事でも、自分の仕事のスキルを高めて行くのに終わりはありません。

一年前の厳島神社に行ったときの事ですが、海の中に生えたように建っている真っ赤な鳥居は実に見事でした。
この鳥居は以前に写真で見たときは柱を丸く削って造ってあると思っていましたが、なんと楠の大木を山に生えていたそのままの状態で使ってあるのです。
鳥居の柱は元は太いまま、末に行くほど径も細くなっています。 (ちなみに元とは木の根元、末とは先っぽという意味です。)
柱そのものが持っている癖や曲がりのある部分をたくみの技で生かして造ってあり、本当に素晴らしいもので、思わずいい仕事だな~、と声に出してしまいました。

吉田君も、いつかお客様に心底感心してもらうようなものを造れるようになって欲しいと願っています。

実に立派な鳥居でした。
楠は樟脳 (しょうのう) の原料にもなる虫のつかない腐りにくい材木なので、海の中に建てても丈夫で長持ちするのです。